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Nogawa 野川

Nogawa 野川 The English version is below the Japanese version. 私は東京の多摩地域で暮らしています。当地域は、東京の歴史的発展においてとても重要な役割を果たしてきた多摩川に因んで名付けられました。この川は、調布市南側と稲城市および川崎市との間の自然の境界線を成しています(地図参照)。しかし、私にとって調布の川といえば、野川です。野川の源流は国分寺駅の近くにあります。調布市北西部に位置する野川公園から同市に入り、三鷹市を縫って、調布市の地理的な中心部(三鷹通りが川と交差する辺り)を貫いていきます。その後、野川は調布を抜け、南東の狛江市に流れ、世田谷区の二子玉川駅付近で多摩川に合流します。野川は全長がわずか20kmしかありません。しかし、短いながらも、調布市内でも有数の美しい景色がこの川に沿って広がっているのです。川岸の道は、サイクリングやウォーキングを楽しむ人々に人気があり、川辺でピクニックを楽しむ家族や、子どもたちが虫や小魚を探して水の中を歩く姿もよく見られます。 私は予てより、川から良いインスピレーションを受けて音楽的アイディアが得られると感じてきました。学生時代に遡りますが、私は「リフレクションズ」というピアノ五重奏曲を書きました。この作品は、丘の上にある源流から下って海に流れていく川を辿った標題音楽です。私のCD「Philip Seaton – Chamber Works」の中の1曲として収録された際には、CDの表紙に当然、イギリスの川の写真を使うことにしました。 なお、CDケースの裏面を注意して見て頂くと、川を写した別の写真にお気づきになると思います。実は、ここは、「リフレクションズ」のインスピレーションを与えてくれたイギリスの田園風景を思い起こさせる、日本国内の風景なのです。どこだかお分かりになるでしょうか。答えは、次回のブログ記事でお伝えしたいと思います… 2018年に北海道から東京に戻ってきて以来、野川はあっという間に、お気に入りの週末の散歩コースのひとつとなりました。野川に沿って歩いていると、1300万人が暮らす超巨大都市の中にいるようには感じられません。大都市がもたらすエネルギー、魅力、それから様々な機会をいくら満喫しているとはいっても、私は自分の暮らす場所に自然や緑があり、そして「スロー・ライフ」を送れることが大切だと常々感じてきました。私の「弦楽四重奏曲ハ長調」の第2楽章には、そうした思いが込められています。C-H(Bナチュラル)-O(オクターブ上)-F-U(1音上)の音で構成された、賑やかな出だしの後、静かに流れる3連符を伴いながら、ロマンティックなゆったりとしたメロディーが続きます。これが、私の「弦楽四重奏曲」の中心にある「音楽による野川」なのです。 とはいったものの、このメロディーは実は30年以上も前に書かれたものなのです。私が初めて日本を訪れる何年も前であり、野川を知る何十年も前のことです。もともとは「リフレクションズ」の中のメロディーで、1993年に当時大学生だった私は友人と演奏を行いました。2018年のCDに収録された「リフレクションズ」は32分のバージョンであるのに対して、当時本作は50分ほどの長さでした。この1993年に行った演奏は重要な学びの機会となりました。作曲家として何か「壮大な」作品を書いてインパクトを与えようと企んだ(初心で経験不足な!)私は、「リフレクションズ」を長くし過ぎてしまったのでした。コンサートにきてくれた友人は、曲を短くしたほうが良いとアドバイスしてくれました。それ以来、作曲を行う上でも、アカデミック・ライティングを行う上でも、簡潔さと無駄のなさの重要性を教訓として私は心に留めています。1998年に「リフレクションズ」を手直しした際、カットしたセクションのひとつが「野川のメロディー」です。これは主旋律というよりも繋ぎのフレーズだったので、いつか別の機会にとっておこうと思ったのでした。 しかし、一度「リフレクションズ」からこのメロディーを抜き取ってしまうと、他の作品に取り込むのは困難でした。私の頭の中でこのメロディーは、川のイメージや「リフレクションズ」の作曲スタイルと結び付きすぎてしまっていたのです。次の作品を書く上では、私はほかの作曲技法を試してみたいと思っていました。けれども、「弦楽四重奏曲ハ長調」は「家」を扱った作品にしようという構想が固まるに連れて、長く放置していたあのメロディーが調布の小川を描くのにぴったりだと感じられたのです。こうして、30年近くの時を経て、このメロディーは新しい家を見つけたのでした。今ではこのメロディーはアレグロの第2主題であるだけではありません。(「弦楽四重奏曲ハ長調」の第1楽章のテーマである)遠いイギリスの幼少時代の家と東京の現在の家とを繋ぐフレーズであり、また、1993年のあのピアノ五重奏曲と2021年に完成した四重奏曲とを繋ぐフレーズでもあるのです。 こうした意味の他にもたくさん意味が込められた音楽なので、「弦楽四重奏曲ハ長調」は私にとって非常に個人的な作品です。本作の初演が私の地元のイベントとして、2021年7月3日に調布国際音楽祭ミュージックサロンで予定されていることを大変光栄に思っています。音楽祭に参加される方々が楽しんで下さることはもちろんのこと、長い目でみたときに、人々の「家」がどこであるかに関わらず、本作を意味深く、示唆に富んだものだと感じて下さることを願っています。 2021年5月30日   I live in the Tama region of Tokyo. It is named after the Tama River, which has played such an important role in the historical development of...
2021年5月30日Philip Seaton